pharmacyfrog’s blog

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死神を食べた少女 上下巻 感想

死神を食べた少女

 

はじめ

 最初、私がこの物語と出会ったのは『小説家になろう』という有名なサイトだった。

 私自身はこのサイトはあまりいい印象はなく、そもそも『主人公最強もの』『チートもの』『ハーレムもの』などたくさんのテンプレートを使用してどの作品も似たようなものばかりで食傷気味だった。そんなサイトで、暇つぶしがてらいいものはないか探していた時に運よく出会えたのがこの作品だ。

 

 私は他のいわゆる『なろう作品』と違ってなぜこの作品に魅力を感じ、また面白いと感じたかを自身の中でも整理するために書きたいと思う。

 

※この感想はネタバレを含みますのでご注意ください。

 

1. ある意味主人公最強、しかし……

 この小説の主人公である少女は究極の飢えのなか、死神を食べたことで、ある意味主人公自身が"死神"と言われるほどの一騎当千の力を持っている。女性かつ細身の体でありながら膂力は(おそらくだが)作中で一番で、戦場では部下を死に近いほの暗く冷たい影響力で魅了し、忠誠心を一気に集めたり死の恐怖を薄れさせ戦士としての質が上がっているような描写が見て取れる。

 しかし、作中で主人公サイドが敵方をバッタバッタとなぎ倒すような展開かといわれるとそれは違う

 この作品は戦記物で展開としては主人公所属の王国軍側が王国の腐敗した政治体制を是正しようと発起した反乱軍(作中では解放軍とも。以下、解放軍)に押されどんどん戦況が悪化していく……といったものだ。

 その悪化していく様も味方が権力やプライドによって判断を間違えたり、有能かつ国の行く末を真の意味で案じているにもかかわらず『自分の目の上の瘤になり得るから』と処断されたり、また、権力闘争を考えている場合ではないのに相手を貶めたいがためにワザと判断を遅らせたりと、非常に主人公サイドの悪化理由解放軍側が有利になる理由に説得力があり面白かった。

 加えて、かつてプライドや猜疑心で判断を間違えた人間が後半になって悪い部分が鳴りを潜め、死の覚悟や最悪の決断を下す際の腹の決まり具合を見せる人間性、または人としての感情の変化が人間臭さを強め、物語に重厚感が出ていると感じた。

 

2. 醜くもある意味"人らしい"キャラクターたち

 先ほどの項でも説明したが、この小説のキャラクターには上に立つ者たちのプライドや権力への渇望による醜さ、さらに過去による自身の復讐心が多く見て取れた。しかし、そんなキャラクターにも土壇場でのヒトとしての情、さらには自らの理想や正義との葛藤があり、元凶であるキャラクターを除けば、その権力に溺れて醜く歪んでしまった様理想を求め汚れていく様が非常に人間臭く物語に深みが出ていると感じた。

 また、かつて民の怒りを旗手に英雄と呼ばれた者たちが民による怒りによって滅ぼされていく様は実際にある一つの国、一つの大陸としての栄枯盛衰を見せられたようで、読後に人の無情さを感じさせてくれる。

 

3. 飢餓感高まる時代感の中での食事

 その他にもこの作品では主人公の"食べること"についても焦点が当てられている。私はこの食事についてはどのようなテーマで盛り込んだのかまでは読み取ることができなかった。

 しかし、最初は腹を満たしかつての復讐を遂げることだけが目的だったシニカル傾向の主人公が、ともに食事をする部下が集まり彼らと食事することで得られる満足から、ともに食事することの喜びのようなものを分かち合う様は何とも言い難い。

 その後の主人公並びに部下たちの展開が、その心の変化によってさらに無情感極まりないものになったことは確かだろう。

 

4. 最後に

 ここまで、基本的に展開について焦点を絞り小説の良かった点についてまとめてみたが、描写力のほうも中々に良かった。ただ、難点として挙げるなら、個人的に少し個々の戦闘シーンが状況を想像しにくかったところだろうか。私の想像力不足かもしれない程度なのだが。

 

 ここまでグダグダ感想を述べてみたが、やはり言いたいことはこれだけです。

 

 おもしろかった。ありがとう。

 無情さを感じる余韻に浸れて心地よかったです。

 

 もし、ここまで私の感想を読んでくださった方で、まだこの小説を読んでいない方がいるのなら一読することをお勧めしたい。

 コロナ情勢下が続き、いまだにホームステイが推奨される今秋に読んでみるのはいかがだろうか?

 

追記:『火輪を抱いた少女』という作品を同作者が書いているみたいなのでまた今度読んでみたいです。