四畳半神話大系 感想
四畳半神話大系(アニメ版)
はじめ
私がこのアニメに出会ったのは去年の夏ごろだ。
『四畳半神話体系』という題名は何となく聞いており、絵柄が独特かつ魅力的な中村佑介さん(※小説『謎解きはディナーの後で』などの表紙を担当されていらした方)がキャラデザを担当されていたこともあり、非常に気になっていた。
しかし、なかなかアニメを見る機会も時間もなく、記憶のかなたに忘れかけていた頃に、偶然お試しで登録したDisney+で配信されていたのが、ご縁となった。
見たのは去年であるが、今年もまた夏休み中に思い立ち、もう一度あの温くグダグダしつつも妙なさわやかさを味わえる作品に浸りたいと思い、夏休み中に鑑賞させていただいた。その際に、中毒性が高いヘンテコな青春を皆さんとも供したいと思い、このブログで紹介させていただく運びとなった。
※このブログはあくまで個人の感想です。また、ネタバレを含む可能性がありますのでご注意ください。
何度も繰り返している『私』?
このアニメは毎度毎度、同じ語り口調から始まる。
最初、主人公である『私』はバラ色のキャンパスライフを夢見て、大学内にあるサークル・同好会から一つを選ぶ。
しかし、そのサークルで実際に自分の理想的な学生生活を送ることができず、『私』は「もっと有意義な人生を送れたはずだ」と後悔する。
「戻れるなら最初に戻りたい!」と。
各話の終盤、その叫びに呼応するように大学の時計塔の時計は巻き戻り、次話にまた別のサークルを選ぶ『私』の話が始まるのだ。
まるで時間を巻き戻して『私』が人生をやり直しているかのように。
このような、なかなか独特な話運びで様々な『私』のキャンパスライフが語られていくのが、この「四畳半神話大系」だ。
『私』を取り巻く個性的な人物たち
同じようで少し違うキャンパスライフを送る『私』には個性的な人間が取り巻いている。
- 映画サークル会長で同サークル内で幅を利かせる城ケ崎先輩
- その城ケ崎先輩と妙な因縁があり、常に飄々として神秘的なMr.モラトリアム樋口師匠
- その二人と知り合いの歯科衛生士である羽貫さん
- 城ケ崎先輩と同じ映画サークルの副会長であるが、ある秘密組織で暗躍し、城ケ崎先輩を陥れようとしている相島先輩
- 『私』が心惹かれている、理知的で凛々しい、しかし蛾がとても苦手で来ると変な悲鳴を上げてしまう赤石さん
- どんな『私』のキャンパスライフにも関わり、無意義さを極めて有意義に過ごそうとしている友人、小津
主人公である『私』は出会いの仕方や、関わり合いの仕方が多少異なるが、これらの登場人物と、多かれ少なかれ関わっていくことになる。
しかし、話数を経るごとにあの人物の意外な一面や、この話の背景ではこの人物はこんなことをしていたなど、別角度から人物の行動が垣間見えてくる。
特にこの傾向が強いのが、『私』の友人である小津だ。
小津は『私』がどんなサークルを選ぼうとも、ぬるりと主人公と縁を持ち、大小さまざまなトラブルを引き起こして、『私』を巻き込んでいく。
しかし、そのトラブルを引き起こした最大の目的はなかなか見えてこない。
その最大の目的は何だったのか、気になる人はぜひ本編を見てほしい。
彼が一番、無意義に有意義な青春を過ごしていたのは確かだ。
人間の可能性という言葉を無限定に使ってはいけない、が……
この作品のテーマについても、少し書いておこうと思う。
作中内で、あるサークルでうまい汁を啜れたものの、いまいち満足できない『私』は樋口先輩に問いかけ、その先輩から「可能性という言葉を無限定に使ってはいけない」と返される。
『私』はどんなサークルでも、小津によってトラブルに巻き込まれ、惨めな思いをする。そのたびに、「小津と出会わなければ」「別なサークルを選んでさえいれば、バラ色のキャンパスライフを過ごせていたのに」と後悔し、「やり直したい!」と懇願する。
しかし、そんな主人公も別な角度から見てみれば……
と、主人公自身も物語全体の終盤、別角度から見ることで、自分も他人も多面的であるという根本に気づくことができる。
確かに人間というのは沢山の道があり、可能性がある。しかし、その遠くにある可能性に目を奪われて、今ある確かな色づいたものを見逃してしまうのでは本末転倒だ。
だからこそ、「可能性という言葉を無限定に使ってはいけない」のだ。
そうしなければ、目の前にぶら下がっている可能性すら目に見えなくなってしまう。
だからこそ、過去を後悔するより、今の自分としてどっしり構えて、手に持つ確かなものが何なのか見極めていくのが大事だ。
そんなことを描かれているのが「四畳半神話大系」なのだと思う。
「あの時こうしておけばもっと……」と過去を悩む人には、もしかしたら妙に心にぐっと迫るものが、『私』の青春から見つかるのではないだろうか。
終わりに
紹介したアニメは現在、Disney+やFOD、dアニメストアなどで配信されているので、お好みの配信サイトでの視聴をお勧めします。
さらに、今回紹介したアニメ『四畳半神話大系』は原作が森見登美彦さんの小説『四畳半神話大系』である。こちらの原作を見たところ、アニメではだいぶセリフが加筆されていることがうかがえる。しかし、それでも原作の雰囲気やテンポを崩すことなく、非常に良い仕上がりになっている。
もし、アニメを見た後に、どの程度で加筆されているのか比較したい場合や原作の雰囲気を知りたくなった場合など、ぜひ原作を一読することをオススメする。
日本語が流浪しつつも端正に子気味よくまとめられ、読んでいて非常に気持ちがよかった。
また、同じような文章が三回も繰り返されるためか、妙なトリップ感も味わえる。
加えて、こちらの四畳半神話体系とサマータイムマシンブルースのコラボレーション企画『四畳半タイムマシンブルース』という面白い作品もあるので、余裕のある方は一度読んでほしい。こちらの作品はアニメ映画化され、2022年の9月半ばからDisney+で独占配信されるようなので気になる方はぜひ。
さらに、蛇足だが、同じ樋口先輩と羽貫さんがひょっこり登場する、同作者の『夜は短し歩けよ乙女』という作品も面白いため、おすすめさせていただきたい。
こちらもアニメ化されているので、アニメでも楽しめます。
死神を食べた少女 上下巻 感想
死神を食べた少女
はじめ
最初、私がこの物語と出会ったのは『小説家になろう』という有名なサイトだった。
私自身はこのサイトはあまりいい印象はなく、そもそも『主人公最強もの』『チートもの』『ハーレムもの』などたくさんのテンプレートを使用してどの作品も似たようなものばかりで食傷気味だった。そんなサイトで、暇つぶしがてらいいものはないか探していた時に運よく出会えたのがこの作品だ。
私は他のいわゆる『なろう作品』と違ってなぜこの作品に魅力を感じ、また面白いと感じたかを自身の中でも整理するために書きたいと思う。
※この感想はネタバレを含みますのでご注意ください。
1. ある意味主人公最強、しかし……
この小説の主人公である少女は究極の飢えのなか、死神を食べたことで、ある意味主人公自身が"死神"と言われるほどの一騎当千の力を持っている。女性かつ細身の体でありながら膂力は(おそらくだが)作中で一番で、戦場では部下を死に近いほの暗く冷たい影響力で魅了し、忠誠心を一気に集めたり、死の恐怖を薄れさせ戦士としての質が上がっているような描写が見て取れる。
しかし、作中で主人公サイドが敵方をバッタバッタとなぎ倒すような展開かといわれるとそれは違う。
この作品は戦記物で展開としては主人公所属の王国軍側が王国の腐敗した政治体制を是正しようと発起した反乱軍(作中では解放軍とも。以下、解放軍)に押されどんどん戦況が悪化していく……といったものだ。
その悪化していく様も味方が権力やプライドによって判断を間違えたり、有能かつ国の行く末を真の意味で案じているにもかかわらず『自分の目の上の瘤になり得るから』と処断されたり、また、権力闘争を考えている場合ではないのに相手を貶めたいがためにワザと判断を遅らせたりと、非常に主人公サイドの悪化理由と解放軍側が有利になる理由に説得力があり面白かった。
加えて、かつてプライドや猜疑心で判断を間違えた人間が後半になって悪い部分が鳴りを潜め、死の覚悟や最悪の決断を下す際の腹の決まり具合を見せる人間性、または人としての感情の変化が人間臭さを強め、物語に重厚感が出ていると感じた。
2. 醜くもある意味"人らしい"キャラクターたち
先ほどの項でも説明したが、この小説のキャラクターには上に立つ者たちのプライドや権力への渇望による醜さ、さらに過去による自身の復讐心が多く見て取れた。しかし、そんなキャラクターにも土壇場でのヒトとしての情、さらには自らの理想や正義との葛藤があり、元凶であるキャラクターを除けば、その権力に溺れて醜く歪んでしまった様や理想を求め汚れていく様が非常に人間臭く物語に深みが出ていると感じた。
また、かつて民の怒りを旗手に英雄と呼ばれた者たちが民による怒りによって滅ぼされていく様は実際にある一つの国、一つの大陸としての栄枯盛衰を見せられたようで、読後に人の無情さを感じさせてくれる。
3. 飢餓感高まる時代感の中での食事
その他にもこの作品では主人公の"食べること"についても焦点が当てられている。私はこの食事についてはどのようなテーマで盛り込んだのかまでは読み取ることができなかった。
しかし、最初は腹を満たし、かつての復讐を遂げることだけが目的だったシニカル傾向の主人公が、ともに食事をする部下が集まり彼らと食事することで得られる満足から、ともに食事することの喜びのようなものを分かち合う様は何とも言い難い。
その後の主人公並びに部下たちの展開が、その心の変化によってさらに無情感極まりないものになったことは確かだろう。
4. 最後に
ここまで、基本的に展開について焦点を絞り小説の良かった点についてまとめてみたが、描写力のほうも中々に良かった。ただ、難点として挙げるなら、個人的に少し個々の戦闘シーンが状況を想像しにくかったところだろうか。私の想像力不足かもしれない程度なのだが。
ここまでグダグダ感想を述べてみたが、やはり言いたいことはこれだけです。
おもしろかった。ありがとう。
無情さを感じる余韻に浸れて心地よかったです。
もし、ここまで私の感想を読んでくださった方で、まだこの小説を読んでいない方がいるのなら一読することをお勧めしたい。
コロナ情勢下が続き、いまだにホームステイが推奨される今秋に読んでみるのはいかがだろうか?
追記:『火輪を抱いた少女』という作品を同作者が書いているみたいなのでまた今度読んでみたいです。